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Hitoshi Dehara / 出原均 ー 絵画は語りかける

絵画は語りかける

見るということは、ものから離れた知覚にもかかわらず、接触で得られるだろう質感までも適格に捉える。櫻井伸也の絵を見ていると、わたしたちの眼の、実は驚くべきこの能力を実感させられる。
樹脂を混ぜて粘性/弾性を高めた油絵具は、〈Love Song〉〈Love Pool〉などのシリーズで用いられてきたが、彼の代表的なシリーズ、〈United Colors〉においてその効果が最も高まったといえるだろう。この絵具で格子のひとつひとつを、色を違えて塗り、それぞれの四隅に、より厚みのあるドットを置く。すると、それらはあたかも封蝋のように緊密に画面全体を結びつける。その結合は、無論、全体の色彩配分、つまり、各層および上下層の色の関係性に多くを負うのだが、それを絵具の粘性が増幅させるのである。対立や分離を起こす色の差異さえもこの質感は抑える。こうして、このシリーズはしばしばポップでカラフルな色が氾濫するにもかかわらず、画面はけっして混乱することなく、むしろ、色の豊かさを許容する懐の大きさを示す。色彩の力と質感の力を結びつけた賜物である。
この結びつきの強さは、同シリーズを純粋な視覚性の呈示だけで終わらせない。つまり、絵をなんらかの社会やシステムの結合のアレゴリーとして読むことを促すのである。そこには十字架などの記号がもつ意味も、以前のシリーズ同様、利用されているが、それ以上に、各ドットを二色とし、二項の結合がその世界全体を統一させるかのような、色そのものを解釈に組み込む戦略に注目すべきだろう。
このように、櫻井は絵画の複数の要素を巧みに繋げ、構築することで、その意味を広げる。食をテーマにした最近の〈Delicious Colors〉シリーズでは、やはり、同じく彼独特の絵具を用いながら、一転、画面全体を平滑に仕上げる。そこに加えられたフォークやスプーンの型押し(実際の物であり、食の記号でもある)がところどころ絵具の層を削り、ドットの模様を崩す。結果、生存のためには食べ物を破壊しなければならないという食の本質が見事に表現されている。彼は確実に自身の視覚言語を増やし、多様な内容を語ろうとしているのだ。日本とヨーロッパを行き来する櫻井が今後なにを語っていくのか大いに楽しみである。

兵庫県立美術館学芸員 出原 均